あくる朝、夜が明けるのを待って、彦一はツガの木のてっぺんに登って、ミソコシを縦にすかしたり横にすかしたりして見ながら、
「うあっ、あ江戸が見えた。うあっ、西京が見えた。うあっ、くらまが見えた。こらあもしょかど」
といかにもおもしろそうに、大声で叫びました。
すると、
「あい、そこのツガの木にあんもんなだれか」
と天狗の声です。
それを聞いても彦一は知らんふりをして、やっぱりミソコシを縦にし横にし、おもしろそうに叫んでいたら、天狗がツガの木の真下まで来て、
「あい、わやなんちゅうもんか。」
「あいか。あや彦一というもんじゃ。」
彦一はそれからまたミソコシをすかして、
「うあっ、くらまが見えた。うあっ、カラス天狗が見えた。うあっ、鼻高天狗が見えた」
と叫びますので、天狗は見たくてたまりません。
「彦一、わいがミソコシをあいにゆずってくえんか。」
「話によっちゃ、ゆずってもよかが。」
「いけんすっとか。」
「天狗さんのかくれ笠かくれみのとかえてくれればミソコシをやんが。」
「そんたでけん。」
「そいじゃこっちもでけん。」
「そいじゃ、いっときかえてみろう。」
そこで、天狗がかくれ笠かくれみのを彦一に渡して、
「ほら渡したから、そのミソコシをやれ。」
「いや、かくれ笠かくれみのをどげんして着んもんか、着てみらんと渡しはならん。」
こういって彦一は、こっちの緒をしめ、あっちの緒をしめして、天狗から着方をあしえられて、すっかり着終ったところが彦一の姿は見えんようになりました。
「あい彦一。」
「あい。」
「ミソコシを渡せ。」
「あい。そらっ。」
ミソコシが天狗の足もとにひょいと飛んで来ました。
天狗は大喜びで、ヅガの木のてっぺんに登ってミンコシをすかして、右を見、左を見してみましたが、見なれた屋久杉の御岳とシャクナグの山が見えるばかりで、江戸も西京もくらまも少しも見えません。
「ああい、彦一、あ江戸も西京もくらまもなんも見えんが。」
「ああ、そんた人間が見いもんじゃから、天狗は見えんとじゃ。」
天狗は彦一にまんまとだまされて、
「うう、彦一、だましたか。」
地だんだふんでくやしがり、カンカンに怒りましたが、彦一の姿は見えず、どうすることもできません。
「あはははは。かくれ笠かくれみのはもろたよ、天狗どん。あはははは。」
彦一は高笑いの声だけを残して、山をどんどんありてしまい.ました。
彦一が天狗からぶんどってきたかくれ笠かくれみのは、宮之浦の二才どもの手をへて、薩摩の殿さまに上げたら、殿さまはたいそう喜んでたくさんの賞品をくれましたそうじゃ。
かくれ笠かくれみのが今にないところをみると、火事にでもあって焼いてしまいましたとじゃろ。
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屋久島ツアーでも人気の屋久島の民話、『かくれ笠かくれみの』でした。